日本列島域における先史人類史の総合的復元方法の研究

科学研究費補助金(学術変革領域研究(A))および(基盤研究(B))(領域・研究代表者:山田康弘)のブログです

出土人骨のbioarchaeologicalな分析が着々と進んでいます。

 先日の日本人類学会では,岩手県蝦島貝塚土人骨の埋葬属性とmtDNAの分析結果について発表しましたが、愛知県伊川貝塚土人骨の分析も進んでいます。

 伊川貝塚2010年度調査区からは、縄文時代の人骨が6体出土しています。これらの人骨は、位置的近接関係や副葬品のあり方などの埋葬属性および炭素14による年代測定の結果から、埋葬小群を構成するものと考えられます。

 そのうちの4号合葬人骨(幼児と大人女性)については母子合葬例と想定されていたのですが、mtDNAの解析が終了し、両者に母系的なつながりは存在しないことが明らかとなりました。親子などでないとすると、一体どのような理由から合葬されたのでしょうか。今後のさらなる分析が期待されます。

 現在残りの5体についてもmtDNAの分析が進んでおり、中間経過ですが、非常に興味深い結果が出てきています。その内容については今現在公表することはできませんが、「埋葬小群内に埋葬された人々は、どのような関係性を持つ人々であったのか」という大きな問題を考える上で、示唆的なものになりそうです。これについては、今後日本考古学協会や日本人類学会などにおいて発表を予定しています。

 また、mtDNAだけでなく核DNAによる分析も行われつつありますので、将来的に分析事例も増加してくれば、考古学・人類学の共同研究(bioarchaeology)によって、縄文時代の親族構造が明らかにされると思われます。これが弥生時代古墳時代、その後へとどのように変遷していったのか、社会構造の歴史的変遷も研究射程に入ってきました。

伊川貝塚2010年度発掘調査区人骨出土状況

 

第76回日本人類学会で発表を行いました。

 

 9月16日から19日までの日程で、京都産業会館ホールにて、第76回日本人類学会大会が開催されました。

 一般シンポジウム『ヤポネシアゲノムの5年間』の中で「岩手県蝦島貝塚出土の縄文人骨を対象とした考古学と人類学のコラボレーション」というタイトルで発表を行いました。

 内容は蝦島貝塚土人骨の年代測定をし、墓域が連続的に形成されていることを確認した上で、これまで考古学が縄文時代の社会構造を分析する際に用いてきた方法論、すなわち1)埋葬地点の近接性、2)頭位方向の共通性、3)抜歯型式の共通性、4)頭蓋形態小変異の共通性、5)同時合葬例を血縁関係者とみなす、の5点をゲノム分析によって検証するというものでした。

 分析結果は意外なもので、従来縄文社会論で想定されていた、後期以降における世帯・家族の析出については再検討が必要で、縄文時代の人々は埋葬地点を選定する際に、血縁関係性をそれほど重要視してはいなかったのではないかという仮説を出すにいたりました。

 今後事例を増やしながら、議論を重ねていきたいと思います。

 

発表時の様子です。

 

『老人と子供の考古学』がオンデマンド版で再販されることになりました。

 拙著『老人と子供の考古学』(吉川弘文館刊)ですが、悲しいかな、売れ行き不振で絶版となっておりました。

 しかしながらこの度、オンデマンド版として復刊することになりました。オンデマンド版は、基本的に内容はそのままですが、凡例や校正ミスなどを修正してあります。

 縄文人ライフヒストリーや階層化社会論をはじめとして、バイオ・アーケオロジーの考え方などについて書いています。

興味のある方はぜひ手に取ってごらんください。

オンデマンド版です。表紙が変わっています。

 

保美貝塚出土人骨のDNAの再検討

 DNA分析の技術は、日進月歩です。以前の研究では、保美貝塚の人骨の歯からはDNAを抽出することはできませんでしたが、現在では耳の後ろの部位からサンプリングすると、かなりの確率で抽出できることがわかっています。

 今回、東大の太田先生と指導されている学生さんたちに都立大の研究室に来ていただき、資料の確認をしていただきました。状態の良い人骨が数体あるので、DNAの抽出は可能ではないかとのことです。結果が楽しみです。

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サメに襲われて死亡した岡山県津雲貝塚出土人骨の埋葬形態

縄文時代』33号に「岡山県津雲貝塚から出土したサメ被害による死亡者の埋葬形態について」が掲載されました。

 これは前年アリッサ・ホワイトさんらが発表された論文

White, A. Burgess, G. Nakatsukasa, M. Hudson, M. Pouncett, J. Soichiro Kusaka, S. Yoneda, M. Yamada, Y. Schulting, R. 2021 3000-year-old shark attack victim from Tsukumo shell-mound, Okayama.Japan,Journal of Archaeological Science: Report 38

では検討できなかった埋葬姿勢を主体とした形態について、ささやかな検討を行ったものです。やはり異常死した方の葬法は特殊でした。