日本列島域における先史人類史の総合的復元方法の研究

科学研究費補助金(学術変革領域研究(A))および(基盤研究(B))(領域・研究代表者:山田康弘)のブログです

考古学協会でセッションを開催しました

5月26日(土),27日(日)に行われた日本考古学協会で,保美貝塚に関するセッションを行いました。内容は以下の通りです。
イメージ 1セッション4:「考古学と人類学のコラボレーションによる遺跡研究の試み-愛知県保美貝塚を事例として-」
山田康弘:趣旨説明
増山禎之:保美貝塚における遺跡景観の復元
設楽博己:保美貝塚における『盤状』集骨墓の検出状況
山崎 健:保美貝塚の動物遺存体
米田 穣・太田博樹・日下宗一郎・覚張隆史・小山荘太郎:保美貝塚土人骨・獣骨の分析

当日は他に縄文時代関係の発表が少なかったためでしょうか,それとも注目されたからでしょうか,予想以上に多くの方々にご来場いただきました。どうもありがとうございました。

また,保美貝塚のセッションの後には日本人類学会骨考古学分科会との共催としてセッション5「子供の骨考古学-小さな骨が語る歴史-」が開催されました。

このセッションでは,本研究の共同研究者でいらっしゃる五十嵐由里子先生が,「骨盤上の妊娠出産痕と妊娠・出産回数の関係」という発表をされました。

ここで,愕然としたのは,腸骨の耳状面前溝には男性・女性の両方に観察できるものがあり,すべてを妊娠痕とみなすことはできないというお話でした。耳状面前溝のうち,浅くて溝の稜線が平行に走るものは,男性にもみることができるので,確実な妊娠痕とはみなせないとのことです。大変驚くとともに,発表を聴きながら,「前浜の女性の妊娠痕はダメだ」と思いました。

私は以前に,宮城県前浜貝塚の女性人骨にこの手の耳状面前溝があるのを観察し,これを「妊娠痕」があると判断しました。たしか,2001年のことだったと思います。さらに,胎児・新生児期の人骨が入った土器棺墓が近接して出土した点,イヌが顔面に置かれていた点などから,本例を「妊産婦の埋葬例」として扱ってきました。しかしながら,これらの論拠のうち「妊娠痕」については,どうやら撤回が必要のようです。今後,五十嵐先生が発表を論文化されるそうなので,その論文が発表され次第,正式に間違いを正したいと思います。なお,前浜貝塚の事例については,最近イヌについても同時埋葬ではないのではないかとの疑義が出されています。前浜貝塚例については,さらなる検討が必要のようです。